2009年12月8日火曜日

iPS細胞を知らなかった大学生が、ES細胞・iPS細胞についてまとめてみた。

ES細胞・iPS細胞まとめ
<[生命科学] 使えるES細胞、iPS細... | [生命科学]「理科離れ」について>
2007-11-22
■[生命科学] ES細胞・iPS細胞まとめ
iPS細胞を知らなかった大学生が、ES細胞・iPS細胞についてまとめてみた。

目次

ES細胞とは

幹細胞
作り方
「万能」は間違い
ES細胞の倫理的問題
各国の対応
iPS細胞とは
作り方


ES細胞とは
ES細胞:胚性幹細胞(Embryonic Stem cells)とは?

生命科学の用語はマスコミの注目を浴びるせいか、現場での理解とは違った理解をされることが多くあります。

ES細胞という名前は非常に有名ですが、「万能細胞」と呼ばれるくらいで、これが一体どんなものなのかあまり正確には知られていないような気がします。

そんなわけでES細胞について、これがどんなものなのか、なにができるのか、を説明してみたいと思います。

ES細胞:胚性幹細胞とはその名の通り「胚の・幹細胞」のことです。言葉を追って説明していきます。




受精卵ははじめは一つの細胞ですが、細胞分裂(卵割といいます)を繰り返し、成長して胎児になります。その途中の段階ではただの細胞のカタマリに過ぎないのですが、この頃を「胚」と呼びます。生き物の形をしていない、発生段階の細胞のカタマリ、と思っていただければOKです。



幹細胞
生体組織の細胞にはその役割によって「幹細胞」・「体細胞」といった種類があります*1。

幹細胞は幹という言葉がついており、よく幹細胞と体細胞は木の幹と枝に喩えられます。幹細胞が体の中心部分で体細胞が体の末端部分…ではないですよ(笑)

胚とは少し離れますが、体を構成するほとんどの細胞は分裂する能力を備えていません。これを体細胞といいます。では新しい皮膚や血液はどうやって作っているのでしょうか。新しい細胞の製造はもっぱらそれ専門の組織の細胞が行い、これを幹細胞といいます。

つまり、幹細胞とは、特定の機能を有し、分裂する能力を備えた細胞ということができます。




話を胚に戻すと、この幹細胞が発生段階において非常に重要になります。なぜならば、胚はこれから分裂を繰り返して様々な組織を作る細胞を生み出していきます。つまり胚の細胞はすべて幹細胞なのです。

生体組織にも幹細胞は存在しますが、血液は骨髄にある造血幹細胞、皮膚は表皮幹細胞、卵や精子は生殖幹細胞というように作ることのできる細胞の種類が決まっています。

すべての組織を作ることのできる細胞は胚の時期の幹細胞、つまりES細胞のみということになります。



作り方
胚の時期の細胞はすべての組織を作れるES細胞である、と書きましたが、これは少し間違いです。ES細胞を胚から手に入れることは確かなのですが、胚発生期の細胞がES細胞というわけではありません。

ES細胞は、胚のある段階から、ある一部分を切り取って、培養して得られたものを言います。

人の手によってのみ、成立する細胞です。





受精卵を手に入れます。←この時点でグレーゾーン
受精卵を育てます。受精卵は1個の細胞ですが、分裂(卵割)を繰り返し1→2→4→8→16→…と規則的に増殖していきます。
胚が胚盤胞まで育った時点で、内部にある内部細胞塊(Inner cell mass:ICM)を取り出し、シャーレで培養する。←胚から目的の細胞だけを切り出す
しばらく培養すればできあがり。


このように、ES細胞は発生段階にある胚から、将来個体に成長する細胞(ICM)を切り取って作成するため、倫理的な問題が発生するのです。



「万能」は間違い
ES細胞は万能、とよく言われますが、この表現は正確とは言えません。

医療で組織再生に使う場合には「万能」といってもほとんど差し支えないのですが、生物学的には少し違っています。



この場合の「万能」とは「あらゆる組織に分化させることができる」という意味になるのですが、分化できない細胞もあります。それは胎児が生まれてくるまでの間に必要な胎盤組織です。

そのため、「成体組織に存在するあらゆる細胞に分化することができる」というのが正しい表現になります。これを「多能性」といいます。*2





ここから下は勉強したことがないので…すいません。




ES細胞の倫理的問題


ES細胞の作り方で説明したように、ES細胞を樹立するには受精卵が必要になります。受精卵は精子と卵が結合したものです。

これは1個の細胞でしかありませんが、いずれ成長しヒトになる細胞です。

「ヒトがヒトになるのはいつか」が倫理的に重要なポイントになります。




各国の対応
ヒトES細胞の研究に対する対応は国によって異なり、アメリカでは公的研究費を用いてヒトES細胞を作製することは認められていません。日本では条件付きで研究費が認められています。参考→京大の山中伸弥教授かっこよす - おこじょの日記




各国の動きをまとめたページがありました。→ヒト胚性幹細胞を巡る各国の動き(ES細胞とは)





iPS細胞とは
iPS細胞:誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)とは?


ES細胞では受精卵(胚盤胞)を用いるために上記のような倫理的問題が発生していますが、”ES細胞のようなもの”を受精卵を使わずに樹立すれば倫理問題を回避できるのでは?

ということで受精卵からではなく皮膚組織から、様々な組織に分化しうる(多能性を持つ)幹細胞が作られました。

iPS細胞がES細胞と異なる重要なポイントは2つ。

受精卵を必要としない
もともと自分の細胞なので、遺伝子を入れ替える必要がない*3
この2点だと思います。

1.は上に書いたように倫理問題を回避することができます。



2.ですが、再生医療によって自分の組織を再生するような場合、ES細胞からなにもせずに組織を再生すると、自分とは異なる遺伝子を持った組織が完成します。この場合、患者にとっては赤の他人から臓器を移植した場合と同じです。これが問題になるのが免疫系による拒絶反応です。

これを回避するためにはES細胞に、「自分の細胞からとった細胞核」を移植しなければなりません。よくテレビで細胞に注射針のようなものをさして細胞をイジっていますが、あれです。

ここでは説明しませんが、核移植技術には問題もあります。

ところがiPS細胞から組織を再生した場合、もともと自分の細胞から作った組織なので遺伝子もまったく同じです。そのため核移植技術が不要で、拒絶反応も起きません。

参考→核移植技術(クローン牛生産技術)



作り方
論文を読んでいないので詳しくはわかりませんが(読んでわかるかどうかも疑わしいw)

参考→Cellに載った論文(PDF)



皮膚組織を培養する
培養した細胞に4つの遺伝子を遺伝子組み換え技術によって導入する
導入された遺伝子の働きによって、細胞が未分化だった胚の頃を思いだす
できあがり
よくわからないのですがポイントになりそうなのは

導入する遺伝子はマウス由来
↑マウスでうまくいったときと同じ働きを持つヒトの遺伝子 だそうです。ですよねー(´`)
遺伝子の導入につかったのはレトロウイルス
再生医療でレトロウイルスを使うとガン化の可能性がある
何が起こっているのか、なんだかよくわからない
あたりでしょうか。



追記◆そのあたりはこちらに詳しくかかれています。→成人の皮膚細胞から万能性をもつ細胞を作ることに成功した。 Orbium -そらのたま-





いろいろと周りが動き出してきたようですね。注目です。

天漢日乗: 皮膚細胞から万能細胞を作った山中伸弥京大教授(その4)山中教授グループの研究に個人で寄付をしたい
新型「万能細胞」国が支援、実用化へ5年で70億円投入 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)



◆参考図書・Webページ

ウィルト発生生物学:Fred H. Wilt,Sarah C. Hake,赤坂 甲治,八杉 貞雄,大隅 典子
Essential細胞生物学 原書第2版:Bruce Alberts,Dennis Bray,Karen Hopkin,Alexander Johnson,Julian Lewis,Martin Raff,Keith Roberts,Peter Walter,中村 桂子,松原 謙一
胚性幹細胞 - Wikipedia
ES細胞とは
日米の研究チーム、ヒトの皮膚から万能細胞の培養に成功 - WIRED VISION
大人の皮膚から万能細胞…京大教授ら成功、再生医療期待 - CNET Japan
ト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
皮膚細胞から万能幹細胞の誘導に成功 - JST
◆その他関連ニュース

京大再生研、皮膚から「万能細胞」作製に成功 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ヒト皮膚から万能細胞…拒絶反応なし、臨床応用に道 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
万能細胞の作製、ブッシュ大統領が喜び声明 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
asahi.com: 人間の皮膚から万能細胞 京大教授ら、再生医療へ前進 - サイエンス
新型「万能細胞」国が支援、実用化へ5年で70億円投入 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
Permalink | コメント(8) | トラックバック(1) | 18:15

*1:ブックマークでご指摘をいただきました。ありがとうございます。本来、体細胞とは生殖細胞以外の細胞のことを指しますが、わかりやすさのためにあえて「体細胞」という表現にしてあります。正しくは「体細胞」と「生殖細胞」、あるいは「幹細胞」と「分化した細胞」と分けて呼びます。「分化した細胞」のほうがいいでしょうか…

*2:全能性(Totipotency)を有するのは受精卵や初期の胚のようです。受精卵・胚は全能性、ES細胞・iPS細胞は多能性、と理解して良いかと思います。

*3:生物学的には少し不適切な表現です。コメント欄をご覧ください。


コメントを書く
k87p561 2007/11/22 23:15
生化学に関して私は門外漢なのですが、報道で
・皮膚から採取した細胞に、ES細胞の研究から得られた4因子を注入して作る
・患者自身の細胞を使うので拒絶反応がなく、倫理上の問題からも逃れられる
ということを知りました。
ですので、
> 2. もともと自分の細胞なので、遺伝子操作の必要がない
これは
> 2. もともと自分の細胞なので、拒否反応がない
が正しいのではないでしょうか?(遺伝子操作は行っているようなので)


bioweb 2007/11/23 02:06
ご指摘ありがとうございます。
遺伝子操作については、まったくその通りです。iPS細胞が自分とまったく同じゲノム(遺伝子すべて)を持っているのに対して、ES細胞では別のゲノム(遺伝子)をもっていることを強調したくてこのような表現にしていました。
ですので、正しく表現すると、2.はおっしゃるように「拒否反応がない」や「ゲノムが同じなので核移植が不要」になります。
生物学ではゲノム・遺伝子・DNAなどは区別して使われますが、一般社会ではほぼ同じ意味として扱われます。そのことも踏まえて書いたのですが、失敗でした。


jseita 2007/11/23 04:19
>幹細胞とは、特定の機能を有し、分裂する能力を備えた細胞
幹細胞とは、多分化能と自己複製能を併せ持った細胞 と定義されます。
>胚の時期の幹細胞、つまりES細胞
これは誤解をまねく表現ですね。次の段での説明の通り正常胚の細胞とES細胞は明確に区別されるべき
なので、「胚の時期の細胞もしくはICMから樹立されるES細胞」とした方が良いでしょう。
>ES細胞に、「自分の細胞からとった細胞核」を移植
通常核を移植する対象は除核した「未」受精卵です。ES細胞ではありません。
http://junseita.com/mt/


hazenoki 2007/11/23 09:42
私のような全くの素人でも分かりやすく解説されていて興味深く読ませていただきました。
wikipedia のES細胞の記事や悪性腫瘍の記事(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E6%80%A7%E8%85%AB%E7%98%8D)や京都大学の説明(http://www.frontier.kyoto-u.ac.jp/rc02/index-j.html)を読んで思ったのですが、iPS細胞を作ることは、「分化した細胞」から「低分化な細胞」を作ることで、癌という病気は突然変異によってできた「低分化な細胞=癌細胞」が暴走する起因するものだと理解しました。ということは、iPS細胞を使った再生医療のような技術は、うまく制御しないと常に癌という副作用と背中合わせになっているのではないかと思ってしまいました。
素人の浅知恵なので、トンチンカンな考えである可能性も高いと思いますが、いかがでしょうか?


bioweb 2007/11/24 22:46
◆jseita氏
>>幹細胞とは、特定の機能を有し、分裂する能力を備えた細胞
>幹細胞とは、多分化能と自己複製能を併せ持った細胞 と定義されます。
>>胚の時期の幹細胞、つまりES細胞
>これは誤解をまねく表現ですね。次の段での説明の通り正常胚の細胞とES細胞は明確に区別されるべきなので、「胚の時期の細胞もしくはICMから樹立されるES細胞」とした方が良いでしょう。

ご指摘の通りです。ただ、定義をそのまま書いても理解しづらいと感じましたので、やや不適当な表現ですが、このような書き方にしてあります。分かりやすく、かつ的確な文章を書くのは難しいですね。精進します。
今回は『特定の機能を持つ細胞を生産(=多分化能)+分裂する能力(=自己複製能)』
『ES細胞は胚から作るってことだけ伝わればいいんだな』て感じで理解していただければと思います…。

>>ES細胞に、「自分の細胞からとった細胞核」を移植
>通常核を移植する対象は除核した「未」受精卵です。ES細胞ではありません。

これは知りませんでした。ノックアウトマウス作製においてES細胞に遺伝子を導入しますが、同じようなタイミングで核移植を行うものだと思っていました。

◆hazenoki氏
がんについては詳しくないので、これは僕の考えになりますが…。
どちらもあまり分化していないという点では同じなのですが、悪性腫瘍は遺伝子不良(突然変異)の積み重ねによって生じるものに対して、iPS細胞は遺伝子に欠損はありません。
ですので、低分化→悪性腫瘍、と単純には考えられないのではないかと思います。しかしiPS細胞・ES細胞から臓器などを作る過程をよく研究しなければならないのは確かです。そうしないと悪性腫瘍どころか何が何だかわからない臓器のようなもの?になってしまうかもしれません。


NoxStrix 2007/11/26 23:42
はじめまして。
とても分かりやすく、興味深く読ませていただきました。
ところで、cellはオンライン上で読めますし、広く報道されているからよいのですが、
アメリカの研究者も、scienceに同じような論文を発表しているらしいのですが、
そちらの詳細な情報をご存知だったら教えていただけたらと思います。


bioweb 2007/11/27 22:25
お褒めのお言葉、恐縮です。
あちこち見て回ったところ以下のページを発見しました。
サイエンス誌に掲載された内容と、その研究所のページです。
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1151526
http://ink.primate.wisc.edu/~thomson/
内容を読んでいないので確かではありませんが、使った遺伝子が少し違うという話を聞きました。導入した4つの遺伝子のうち、2つが山中教授と共通で、2つが別なんだとか。


京都人 2008/02/25 20:57
はじめまして。いくつか指摘させて頂きます。
まず「万能性」についてですが、現在では昔と定義は変わっています。
http://ameblo.jp/regenerative-kyoto/entry-10073261227.html
に詳しく書いていますのでご参照下さい。

次に細かいことになるのですが、iPS細胞の作製において「遺伝子組み換え技術」は使っていません。
遺伝子組換えというと基本的には相同組換えによる遺伝子置換や遺伝子挿入のことを指します。
iPS細胞の作製時の遺伝子導入で使われているのはランダムに遺伝子が導入されるレトロウイルスによる遺伝子導入技術です。
相同組換えによる手法も研究されていますが、まだ発表はされていません。

ES細胞やiPS細胞とガン化についての誤解に関しては
http://ameblo.jp/regenerative-kyoto/entry-10074924189.html
に解説してみました。
「低分化→悪性腫瘍、と単純には考えられないのではないかと思います。」
というわけではありません。
細胞が未分化であれば確実にガン化は起こります。
要はいかにきちんと分化させれるかということが鍵を握ります。

また、サイエンスに掲載された論文の解説もありますのでどうぞ。
http://ameblo.jp/regenerative-kyoto/entry-10073749204.html



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